平成17年3月18日号


 

東京ガス ホロニック・エネルギーシステム


実現に向け東大に寄付講座

浅野上席研究員

 エネルギー安定供給・環境問題・経済成長のトリレンマを解決し、将来にわたって持続可能な社会への発展を実現させるため、分散型エネルギーと全体システムとの最適な調和を図ろうとするのが”ホロニック・エネルギーシステム”。この未来型エネルギーシステム構築に向け、東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻では、東京ガス(市野紀生・社長)の寄付による『ホロニック・エネルギーシステム学寄付講座』を4月から3年間計画でスタートする。担当教授には、4月1日付けで、現在財団法人電力中央研究所社会経済研究所の浅野浩志・上席研究員が就任する。寄付額は3年間で6,000万円。

 ホロニック・エネルギーシステムの語源である”ホロン(HOLON)”は英国の哲学者アーサー・ケストラーが1970年代に提唱した概念で、ギリシャ語の”ホロス(HOLOS)”(全体)と”オン(ON)”(個や部分)の合成語。すべてのものは全体の一部分”構成要素”でありながら、それ自体がひとつの”全体”でもあるという考え方で、日本語では”全体子”と訳され、個と全体の有機的調和という意味で用いられる。この概念をエネルギーシステムに適用したのがホロニック・エネルギーシステムである。

 具体的には、◇分散型エネルギーシステムの最適な導入規模・形態・運用等についての設計技術、◇コージェネレーションに加え、風力・太陽光・バイオマスなど再生可能エネルギー利用やエネルギー貯蔵、熱利用などのシステムを構成する要素技術について研究を行う。
 これまで分散型エネルギーシステムで出てくるエネルギー源は、それぞれ個で完結し、全体としての総合融通性に欠け、全体に対しても、個に対してもメリットがあるところまではいっていなかった。最近になってようやく個である需要家が持っているエネルギーシステムで参加できる環境が整い、個が全体子とつながるメリットがあるエネルギーシステムが生まれつつある。
 浅野上席研究員は「個がうまく活用される未来型エネルギーシステムの設計を考えてみたい。エネルギー需給マネージメントで大切なコストと、環境負荷両方の意味で最適化を図り、適切なエネルギーシステムの構成、運用などを研究していく」という。
 現在、国も産業界も分散型電源の利用を促進させようとしているが、どのような需要にマッチしているのか、無駄のない運用ができるのかが問題である。一例として電気に注目すると、マイクログリッド(ミニ電力系)の実証研究が行われているが、実際に今ある技術で、10年後、20年後に使われる分散型エネルギー技術を使うと、マイクログリッド内で、あるいは外側で、どれだけエネルギー効率が得られるのか、環境負荷が避けられるのかといったことを、定量的にシステムを構築し、評価していく。「3年後目標として、芽が出始めているエネルギー技術について、社会で受け入れられるためには、将来どれだけの発電効率までもっていかないといけないのか。経済性、環境負荷の低減などを具体的に技術がどれだけ成熟していくと、社会に受け入れられ、実際に効果を持つようになるのか、エネルギーシステムのシナリオを提案できればと思っている」



受精に必須の免疫グロブリン
イズモ 岡部・阪大教授ら発見


 大阪大学遺伝情報実験センターの岡部勝・教授らはマウスを使った実験から、精子側がもっていないと受精ができなくなる新たな免疫グロブリンを突き止めた。縁結びの神様で有名な出雲大社から、同定した因子を「イズモ」と名付けた。さらにイズモが機能しないマウスは、卵子と結合できるものの融合できない精子しか作り出せないことを発見。精子側の受精、特に互いの細胞膜融合に関する必須因子の同定は世界で初めて。英科学雑誌『ネイチャー』の3月10日号に掲載された。
 ヒトの身体を形成する60兆個の細胞群も、元は精子と卵子が出会い、互いに認識して受精することから始まる。このため精子と卵子との受精の研究は長年にわたって続けられている。最近になり、卵膜上に発現したCD9受容体が、卵子側の融合に必須の因子として報告された。精子側での必須因子はいまだ分かっおらず、岡部教授らは受精を阻害するモノクローナル抗体を使った実験系に着目して必須因子の同定を進めた。
 実験では、まずマウスの精子を含む溶液を2次元電気泳動するとともに、モノクローナル抗体を添加した免疫ブロッティングから新たな遺伝子を同定した。さらに遺伝子データベースなどから、これが新しい免疫グロブリンスパーファミリー分子になることが分かり、岡部教授らはイズモと名付けた。
 また、イズモの機能欠損したマウスを作製して生理学的な機能を調べた。オスのマウスは見かけ上健康だが、正常のメスと交尾をしても不妊だった。原因を解析すると、イズモ機能欠損マウスの精子は卵の表面にある透明体部分には結合できるものの互いの細胞膜が融合することがなく、受精が成立しなかった。ヒトの受精研究で使われる透明体のないハムスターの卵子との受精テストをしたところ、抗体でイズモの機能を欠かせたヒト精子でも細胞膜の融合が起こらず、受精が成立しなかったという。


 

 


 

数論幾何学の加藤氏に恩賜賞
17年度学士院賞決定


 日本学士院(長倉三郎・院長)は14日の総会で、平成17年度日本学士院賞を加藤和也・京都大学大学院理学研究科教授ら10名(9件)に授与することを決めた。加藤氏には恩賜賞も重ねて授与される。授賞式は6月下旬に開かれる予定。恩賜賞には賞状と御紋付銀花瓶が、学士院賞には賞状と賞牌、賞金100万円が贈られる。自然科学系は7名、6件。
 加藤氏は、数論幾何の発展を世界的にリードしてきた。なかでも最近の保存形式の岩澤理論に関する成果は、独創的なものであり、世界的に非常に高い評価を受けている。バーチ・スウィンナートン・ダイア予想のように、整数論的な対象をL関数で記述するという問題は、その重要さと困難さで知られているが、同氏の業績は、この問題に対する大きな成果として歴史に残る研究である。
 その他の自然科学系受賞者は次の通り。

 ◇ブラックホールの形成と重力波放出の理論的研究(中村卓史・京都大学大学院理学研究科教授)
 中村氏は、一般相対性理論のアインシュタイン方程式と流体方程式の非線形連立方程式を、高精度で数値的に解く新方式を発見して、非常に高密度の星である中性子星が回転しながら重力的に収縮してブラックホールになる過程、中性子星の連星が重力波を放出しながら次第に接近して合体し、ブラックホールを形成するまでの過程の全貌を解明した。特に重力波については、この放出された重力波が地球に到達したときの強度と波形の時間変化が明らかになった。

 ◇半導体ナノ構造による電子の量子制御と強磁性の研究(榊裕之・東京大学生産技術研究所教授、大野英男・東北大学電気通信研究所教授)
 構成原子を変化させることによって結晶中の電位分布を変えると導電準位が制御できることは容易に納得できるが、試みられたことはなかった。榊氏は江崎玲於奈博士の後を受け、2次元に拡大して極めて興味ある2〜3の結果を得た。さらに大野氏は、深い準位を形成する不純物を導入してその最外殻電子を利用して磁化に成功するとともに、キャリア注入によって最外殻電子を付与して、磁気・半導体特性を制御することに成功するという画期的成功を収め、半導体・磁性の両特性を併用した新しい応用の可能性を示した。

 ◇インフルエンザ制圧のための基礎的研究―家禽、家畜およびヒトの新型インフルエンザウイルスの出現機構の解明と抗体によるウイルス感染性中和の分子的基盤の確立(喜田宏・北海道大学大学院獣医学研究科長・教授)
 喜田氏は、自然界におけるインフルエンザAウイルス存在のメカニズムは、渡りガモと北方圏営巣湖沼にあることを突き止め、さらにトリとヒト由来の両ウイルスに感染したブタを介して、遺伝子の再集合による新型ウイルスが出現することを実証し、家畜、家禽、ヒトを含む生態系の中で、ウイルスの抗原変異と分子進化が起きる機構を明らかにした。また、抗体の新しい生物活性とその分子機構を解明したほか、インフルエンザ制圧の方策をも提唱し、国際共同研究を推進した。

 ◇KIT受容体を介した肥満細胞とカハール介在細胞の分化と癌化(北村幸彦・塩野義製薬顧問/大阪大学名誉教授)
 北村氏は、即時型アレルギーのエフェクター細胞であるが、性格が不明であった肥満細胞について、骨髄起源であることや分化誘導等、種々な性格を明らかにするとともに、その細胞の腫瘍化が増殖因子受容体KITの機能獲得変異によって起こることを証明した。また、kit遺伝子の異なった機能獲得性変異がカハール介在細胞の腫瘍化を起こし、消化管間質細胞種(GIST)に発展することも見いだした。この発見は、GISTの新しい治療法の発展につながった。

 ◇不斉分子触媒の創製と医薬化学への展開に関する研究(柴ア正勝・東京大学大学院薬学系研究科教授)
 柴ア氏の研究は、天然酵素のみが有する多点認識能を合成分子不斉触媒触媒に導入した点で注目されている。柴ア分子不斉触媒は酸性を示す中心金属と塩基性を示す官能基から成り立っていて、酵素よりも優れた物質変換能を有し、各種抗ガン剤や抗エイズ薬等の極めて効果的な合成を可能にした。またこれまでの不斉触媒反応では構築が不可能であった四置換炭素の不斉制御も確立しており、今世紀の触媒不斉合成を先導する画期的な研究である。

加藤 和也 氏

中村 卓史 氏

榊 裕之 氏
大野 英男 氏
 
喜田 宏 氏
北村 幸彦 氏
柴崎 正勝 氏
 

 

 


 

水質浄化と同時にカキ養殖
長野県と海洋機構が共同
大村湾で実験、好結果


  水質浄化と同時にカキを養殖しようという試みが、長崎県大村湾などで行われている。長崎県衛生公害研究所と海洋研究開発機構が共同で進めている実験で、富栄養化しつつある閉鎖性内湾から栄養化物質である窒素やリンをリサイクルして、カキの養殖に役立てるというもの。昨年1月から今年1月までの間に実験とモニタリングを行った結果、丸々と成長した牡蠣が収穫できたという。生物の生息環境を改善しつつ、安定的な水産物生産を実現できるシステムが構築できれば、持続可能な社会構築への貢献も期待される。
 窒素やリンは生物の成長に必要不可欠な要素で、農業では肥料として使われている。内湾でも河川などから流入した栄養は魚介類の成長を支え、漁業によって再び陸に上げられリサイクルされている。しかし栄養が多すぎると海は富栄養化して、貧酸素や赤潮の原因となり、魚介類の成長を阻害しリサイクルを妨げてしまう。
 富栄養化物質を効率的にリサイクルする方法の一つとして、餌を与えないで育てる養殖方法(無給餌型養殖)があるが、従来の方法では貧酸素などの影響で壊滅的な打撃を受けることがあった。一連の実験は、養殖場の海底にホースを設置し、水質が最も悪くなる夏の約3〜4ヶ月間にわたり海底から空気を送り込んで(曝気)、大村湾の特産品であるカキの生き残りや成長を確保・促進するというもの。曝気だけでは富栄養化物質のリサイクルはできず、カキ養殖だけでも浄化は困難だったが、両方を組み合わせることで、リサイクル浄化を可能にした。
 昨年は酷暑や台風と特徴的な年だったが、カキが丸々と大きく成長した。カキが成長するには、7〜9月の間、海底近くの溶存酸素(DO)濃度が大きく影響するが、今回の平均値は1箸△燭6.2性弔般槁乎4.3性弔鯊腓く上回った。また生物の育成に必要なDO濃度の予測モデルも構築され、例えば初夏の環境データや養殖量を過去の気象統計などと併せて入力することで、7〜9月の盛夏に必要となる適切な曝気量を予測できる可能性も示唆された。この予測技術は別な海域に対しても豊かな生物を育むための環境浄化に見通しを得ることができるだけでなく、年間の収益予測にもつながると期待される。


     


 

海洋調査船「なつしま」
スマトラ島沖海底を調査

 海洋研究開発機構(海洋機構)は、インドネシア技術評価応用庁と共同で、海洋機構所有の海洋調査船『なつしま』および無人探査機『ハイパードルフィン』等を用い、2月18日から3月4日までの18日間(前半)、スマトラ島沖地震の震源域海底を中心とした調査を行った。

 今回の前半調査では、まず東京大学地震研究所所有の長期設置型海底地震計2台を設置し、震源域近傍における余震観測を開始した。これにより、震源近傍でしかできないマグニチュード3クラス以下の微小地震を含む余震分布を求めることができる。
 またハイパードルフィンに搭載した超高感度ハイビジョンカメラを使い、世界で初めて震源域での海底観察を行い、斜面崩壊による亀裂の発見や崩壊した崖、その下流側に発達する海水の濁りの層を確認した。さらに、地震で海底面が最も大きく変位した海域で、約3,000平方銑辰傍擇崟催戮旅發こつ戝老楚泙鮑鄒した。このほか、巨大地震や大津波による海底表層での環境変動を理解する海底地震発生後の海底面観測データを世界で初めて得ることにも成功した。
 こうした成果をもとに、3月10日から22日にかけ行われる調査後半では、断層等の地殻変動の特定を目指すとともに、海底地形図の作成、海底地形変動探査や余震分布観測を実施するとしている。

急崖の上方斜面に発達する開口割れ目群(2月22日のハイパードルフィン第383潜航)
写真提供:JAMSTEC/BPPT

 

 




GM理解へ体制整備
植物関連学会、内閣府へ要求

日本植物生理学会(岡田清孝・会長)をはじめとする植物関連の六学会(日本農芸化学会、日本育種学会、日本植物細胞分子生物学会、園芸学会、植物化学調節学会)は、内閣府に対して、遺伝子組み換え(GM)植物の適切な社会的受容を進める体制を整えるべきと提言した。
 国内で消費される大豆の7割以上がGMと試算され、植物油のほとんどがGMを原料としているなど、GMは日本にも大量に輸入され、食品や飼料として消費しているにもかかわらず、多くの消費者はGMに対する忌避感を持っている。そのため、自治体などがGM作物の試験栽培や、GM技術を用いた研究にまで規制するという動きを植物関連学会では懸念し、今回の提言を起草した。3月2日に内閣府BT戦略会議・岸本忠三座長に趣旨説明を行い、BT戦略会議での対応を求めた。
 今回の提言では、冷静な議論のないままこうした現状が続くことは、「日常的に消費している食品に対する不安感を助長し、食品行政に対する信頼が失われる」また「農業並びに植物バイオテクノロジーなどの科学技術の発展を妨げる」として、内閣府のリーダーシップのもと、関連各省庁や自治体関係者の調整を図り、GM植物の基礎研究に対する過度の規制を防ぐとともに、GM作物やGM食品に関する科学的根拠に基づいた知識を、社会に向けて積極的に情報発信するための体制を整えてほしい、と提言した。

 

 


 

1本の光ファイバーで世界初
千波長を多重伝送
−NTTが実験に成功−

 

 NTTは、1000波長の光を一芯の光ファイバーに超高密度多重する波長分割多重(WDM)伝送に世界で初めて成功した。これは、約1540nmから約1600nmの波長領域で、1000波長もの光を超高密度に多波長発生できる光源と、それを束ねて一芯ファイバーで伝送し再び1000波長に分波できる超高密度WDM用の光合分波器を開発して実現したもの。実験には情報通信研究機構(NICT)が運用するオープンな研究開発テストベッドネットワーク「JGN供廚鰺僂ぁ京都けいはんな〜大阪堂島間の往復126銑辰播疏した。
 インターネット、ブロードバンドの普及にともなって爆発的に増大する中継ネットワークのトラヒック対策が急務となっている。NTTでは、これを解決する高品質で柔軟な次世代バックボーンネットワーク実現へ向け、波長の違いによって光のまま信号を切り替える波長ルーティング技術とWDM技術を駆使した、フォトニックネットワークの研究開発を進めている。しかし、これまでのWDM技術では多重する波長数(チャネル数)分の半導体レーザーを光源として使用していたため、チャネル数増大にともない各レーザーの波長制御が難しくなり、数百波を超える超高密度多重は実現できなかった。
 今回は超高密度多波長発生技術として、ガラスのような透明な物質に強い光が通過した時に、波長数が爆発的に増大する現象を利用した「スーパーコンティニウム(SC)光源」と呼ばれる多波長光源を用いた。これにより、波長が等間隔に並んだ1046波長の光を一括して発生させ、従来よりも8倍も高密度に波長が並んだ高品質な1000波WDM信号(波長間隔6.25GHz)の生成に成功した。  また、そうして発生させた超高密度WDM信号を合分波する多波長分離技術として、波長アレイ導波路格子(AWG)フィルターを用いた。これは、波長分解能が優れており6.25GHz間隔の超高密度1000波WDM信号を波長単位に合波・分波できる。
 実証実験では、ビットレート2.67Gbpsとし、1000波多重で2.67テラビットという大容量伝送を、JGN兇箸い実環境のネットワークで実現した。
 NTTでは、今後数千波長の光を自由に使いこなし、一人一波長で利用できる技術の実現を目指して、超大容量フォトニックネットワークの研究開発をさらに進める。